元気だった人が突然亡くなってしまう突然死、その原因の多くは心臓によるものといわれています。2016年4月に亡くなったタレントの前田健さんの死因として報道された虚血性心不全もそのひとつです。このように突然死に繋がる虚血性心疾患を予防するにはどのようにしたらいいのでしょうか。早期発見と治療、さらに突然死の予防について詳しく解説します。

目次

虚血性心疾患とは

虚血性心疾患とは、心臓の冠動脈が狭窄または閉塞し、血流が阻害される病気の総称です。

虚血性心疾患のなかでも代表的な疾患は、狭心症(冠動脈が狭くなり、心筋が一時的な虚血状態となる状態)と心筋梗塞(冠動脈が完全に閉塞し、心筋が壊死を起こす状態)です。

いずれも代表的な症状は胸の痛みですが、虚血の範囲によっては、歯が浮いた感じ左肩の痛みなど、胸痛を自覚しない場合もあります。

また心筋の広範囲に虚血や壊死を起こすと、心臓はポンプ機能を失い、全身に血液を送り出すことができず、心原性のショック状態となります。

なお、虚血性心疾患の症状や危険因子について詳しくは記事「突然死…虚血性心不全ってどんな病気?」をご参照ください。

虚血性心疾患の治療

虚血性心疾患のメカニズム

狭心症心筋梗塞では、冠動脈のどの部分が狭窄または閉塞しているかによって、重症度や予後が異なります。
冠動脈は大きな3本の枝で形成されていますが、狭窄や閉塞を起こした場所が根元に近いほど虚血や壊死の範囲が広くなります

一方、枝の末梢に起きた狭窄や閉塞の場合は、症状も軽く、治療を必要としない場合もあります。

狭心症の治療

薬物治療

狭心症の治療では効果の異なるいくつかの薬を合わせて使用します。

  • 硝酸薬、Ca(カルシウム)拮抗薬:血管を広げる薬
  • β(ベータ)遮断薬:血圧や脈拍を抑え心臓の負担を軽くする薬
  • 抗血小板剤:血栓を作りにくくする薬

さらに狭心症の発作時には硝酸薬であるニトログリセリンを、即効性のある舌下錠(舌の下に置いて口腔粘膜から吸収させる薬)やスプレーで使用します。

経皮的冠動脈形成術

冠動脈にカテーテルを挿入し、狭くなった部分をバルーンを用いて拡張するPTCA(風船療法)や、拡張状態を維持するために金属の網を裏打ちする治療(ステント療法)などが行われます。

心臓バイパス手術

冠動脈の狭窄部位や程度、また複数の箇所に狭窄がある場合は、治療法として心臓バイパス術が選択されることがあります。
血流が悪くなっている冠動脈の代わりにバイパス(側副路)を作る手術で、バイパスに用いる血管は身体のほかの部分の血管(内胸動脈や足の静脈)が用いられます。

狭心症の治療について詳しくはこちらの記事「狭心症を疑ったら…検査・治療・手術の流れ」をご参照ください。

心筋梗塞の治療

急性期の全身管理と再灌流療法(さいかんりゅうりょうほう)

心筋梗塞のなかでも、発症直後から3日間は急性心筋梗塞といい、心原性ショックや致死性不整脈など命に関わる変化の起こりやすい時期です。

呼吸や心拍が不安定な状態であれば、人工呼吸器体外式ペーシング(※)を用いて、全身状態を維持しながら、閉塞した冠動脈を再灌流(薬剤で血栓を溶解したり、バルーンやステントで狭くなった冠動脈を拡張したりさせること)処置を行います。

なお、再灌流は発症後の経過時間が短いほど(6時間以内)効果があり、梗塞範囲(心筋が壊死する範囲)が小さくなることで、予後も良くなるといわれています。

※体外式ペーシング

一時的ペースメーカーとも呼ばれるもので、腕や頸の静脈から電極のついたカテーテルを心筋に挿入し、心臓に刺激を与えて心拍を維持する装置です。

合併症の予防と心臓リハビリテーション

急性期を脱した後は、心不全不整脈などの合併症を予防するための服薬治療が必要になります。

さらに、冠動脈の拡張を助け心肺機能を向上する効果やさらなる動脈硬化の進行を予防するため、適度な運動を治療プログラム(心臓リハビリテーション)として行います。

こんな人は要注意!虚血性心疾患の予防

お菓子と体重計

虚血性心疾患の予防の第一は動脈硬化の予防です。動脈硬化は老化現象として誰にでも起こるものですが、その進行には

  1. 肥満
  2. 糖尿病
  3. 高脂血症
  4. 高血圧

が深く関与しており、この4つは「死の四重奏」と呼ばれています。

職場や生活習慣病予防のための健診で、これらの検査を受ける機会があると思いますので、動脈硬化の危険性がある人は、虚血性心疾患についても注意が必要です。

(検査と病気の関連についてはこちらの記事「血液検査で異常が見つかったらどうすればいいの?血液検査で分かる病気とは」をご参照ください。)

肥満の予防と改善

肥満になると血中のコレステロールが増加し動脈硬化を引き起こしやすくなります。

また、肥満は血糖値をコントロースするインスリンの働きを阻害し糖尿病の原因となるほか、大きな身体に血液を循環させるために心臓には負担がかかり血圧も高くなります。

このように肥満は死の四重奏の他の因子(糖代謝異常・脂質異常症・高血圧)とも密接な関連があります。
さらに、肥満になることで睡眠時無呼吸症候群を発症しやすくなり、睡眠時無呼吸症候群もまた心臓病の原因となりえます。

対策として、体重は適正体重(=身長(m)×身長(m)×22)を目安にコントロールしましょう。
体重の管理は、カロリーコントロールによる食事療法が基本となりますが、筋肉量の維持や血行の促進、ストレス解消のためにも、ウォーキングなどの運動も取り入れましょう。

なお、肥満解消のための食事療法については、記事「肥満から抜け出したい!~肥満を解消するための食事のポイント~」をご参照ください。

糖尿病を予防する

血糖値を下げる働きをするインスリンというホルモンが不足して起こる糖尿病は、自覚症状がなくてもじわじわと動脈硬化を進行させています。

糖尿病の発症には、肥満のほか、脂肪の多い食事過食運動不足喫煙などの環境因子や、両親や兄弟に糖尿病患者がいるといった遺伝因子も関与しています。

これらのリスクを自己チェックし、自身で改善できる部分にアプローチすることを心掛けましょう。

高脂血症を予防する

高脂血症そのものには自覚症状はありませんが、放置しておくと動脈硬化が進行し、心臓や脳、血管の病気を引き起こします。

高脂血症は遺伝や体質、肥満、過食によって起こりますが、太っていないのにコレステロール値が高い人もいます

家族性高コレステロール血症という遺伝性疾患のほか、コレステロールの多い食品を好んで食べる隠れ肥満といわれる内臓脂肪型肥満の場合には体重に関係なく高脂血症となり得るのです。

また女性の場合は、更年期以降のホルモンバランスの関係からコレステロール値が高くなる傾向にあります

高脂血症の予防には、食事により動物性脂肪やコレステロールの多い食品(魚卵類、内臓類)の摂取を控え、食物繊維やイソフラボン、オレイン酸やDHA/EPAを多く含む、コレステロールを下げる食品の摂取を心がけましょう。

高血圧を予防する

高血圧は糖尿病や動脈硬化と同様に自覚症状のない時期から、じわじわと動脈硬化を進行させています。また、高血圧はすでに動脈硬化があり心臓に負担がかかっているサインでもあります。

高血圧の予防には、減塩を基本とした食事療法のほか、禁煙規則正しい生活を送るといった自律神経のバランスをとることも大切です。

禁煙とストレス緩和

喫煙やストレスも血管の劣化や自律神経に影響を与え、動脈硬化を進行させる危険因子となります。
タバコは控え、充分な睡眠をとり規則正しいで生活で心身のストレスを緩和しましょう。

特に、まじめで責任感が強い人や、せっかちで怒りっぽい、挑戦的な性格傾向の人は心理学の分野で心臓病が多いことが分かっています。
こうした性格や行動パターンは心臓に負担をかけてしまうことを自覚し、ゆっくりと穏やかに過ごす時間を大切にしましょう。

病気の前兆?突然死を防ぐためにできること

ハートと聴診器

検査により動脈硬化や軽度の狭心症が発見された場合は、より体調に注意し、心筋梗塞による突然死を予防しましょう。

前兆に注意する

これまでに一度も狭心症発作(胸の痛みの自覚)がなく、突然に発症してしまう場合もありますが、多くは、軽い胸痛や違和感などの前兆があります。

また、歯の浮くような感じや、左肩の痛み、左腕のだるさ、胃の痛みなど、典型的な胸痛でない場合もありますので、これらの症状にも注意しておきましょう。

急激な運動は控える

虚血性心疾患のリスクがある人は、急激な運動は危険です。
運動による急激な血圧や脈拍の変動により心臓は酸素不足となり、冠動脈の虚血や閉塞を引き起こします日頃運動習慣のない人は、徐々に運動量を増やし身体を慣らしていくことが必要です。

一方、運動習慣があり体力に自信のある人も、オーバートレーニングや体調不良時に無理をしないよう心掛けが必要です。

脱水に注意する

運動による発汗のほか、高温の夏場などで起こる脱水は血栓による心筋梗塞を引き起こしやすくなります。充分な水分補給を心掛けましょう。

過労やストレスにも注意

過労や強いストレスも血圧や脈拍を増加させ、心臓への負担となります。慢性的な睡眠不足や精神的疲労に慣れていると思っても、心臓は一触即発の状態かもしれません。
自分の身体を過信せず、労わることも必要です。

まとめ

虚血性心不全(虚血性心疾患)は、突然死の原因となる病気であり、その原因となる動脈硬化を予防することが基本となります。
早期に発見し、適切な治療を受けることで重症化や突然死を防ぐことができます。

定期的な健診を受け、予防とともに早期発見を心掛けましょう。