秋~冬はご存知のように風邪の流行する季節です。
「風邪は万病のもと」とよくいわれますが、風邪から始まって中耳炎や副鼻腔炎、気管支炎、喘息の悪化、肺炎など、実にいろいろな合併症、続発症をおこすことがあります。
今回は風邪のハイシーズンといえる秋冬に流行る主な風邪症状の原因ウイルスや、その続発症についてご説明します。

目次

「風邪症候群(風邪)」とは

風邪症候群とは「ウイルスを主とした病原体による上気道感染症で鼻水のどの痛み、発熱などの症状をきたし、おおむね1週間程度で自然治癒する病態」をさします。原因となっている病原体が特定されれば、例えばインフルエンザウイルス感染症、RSウイルス感染症などのように呼ばれます。

インフルエンザやRSウイルスはしばしば重症化し、対処方法も異なるため独立して扱われることも多いですが、多くは同じような症状から始まり、風邪かな?と思うところから始まると思います。そのため、ここではまとめて風邪と表現しています。

秋から冬はなぜ風邪が流行るのか?寒い季節に流行るウイルス

子供の熱を計るお母さん

寒い季節に風邪が流行するのはなぜでしょうか?原因として、

  1. 感染力の強い風邪の原因となるウイルスが低温や乾燥した気候のもとで増殖しやすい
  2. 低温や乾燥により、ウイルスの入り口である鼻やのどの粘膜の防御力が低下する
  3. 寒いので狭い屋内に人が集まりやすい

等の可能性が考えられます。

また、原因ウイルス別の発生数からは

  • ライノウイルス
  • RSウイルス
  • インフルエンザ

等が秋から冬にかけて流行します。これらのウイルスについて、特徴を簡単にご説明します。

RSウイルス

RSウイルスは乳幼児期にかかりやすく、ときに入院を要するような重症例もあることが良く知られています。ところが近年、高齢者においても流行や重篤例がみられることが分かってきています。

通常、大人では数日の鼻水と咳症状でおさまることが多いとされています。乳幼児期に罹ると高熱、鼻水、咳等をきたし、ときには細気管支炎と呼ばれる呼吸がヒューヒューと苦しくなる病態になることがあります。喘息と症状が似ているので、鑑別が重要となります。

流行期は例年11月~1月ごろですが、2017年は夏から秋にも流行がみられました。

有効なワクチンはまだ開発されておらず、重症化のリスクが高い新生児・乳児に対して予防薬の保険適応があります。RSウイルスについて詳しくはこちらもご覧ください。

ライノウイルス

ライノウイルスは鼻かぜを起こす代表的なウイルスです。例年春と秋に流行します。

症状は、鼻水、くしゃみ微熱などの症状が出て、数日程度で改善します。時に咳が長引くことがあります。気管支喘息を持っている方がこの風邪にかかると、喘息症状が悪化し発作になったり咳症状が続いたりすることがあり、追加の治療が必要になります。

インフルエンザ

聴診器とぬいぐるみ

1.流行する時期

インフルエンザは例年11月~4月頃まで発生がみられます。流行のピークは1月~2月にみられることが多いです。

2.症状と経過

典型的なインフルエンザの症状は、高熱筋肉節々の痛みだるさ頭痛、のどの痛み、くしゃみ鼻水、咳など、風邪の症状のそれぞれがすべてきつくなったような症状です。抗インフルエンザ薬を使わない場合は、熱は数日続き、5日~7日くらいでやっとその他の症状も取れてきて体が楽になります。

一方、軽い風邪症状で、念のため調べてみようということで検査をすると、やはりインフルエンザだった、ということは少なからずあります。ご本人は軽くすんでしまっても感染源になりますので、特に流行期には、軽い風邪症状であってもインフルエンザかもしれないと思って行動することが必要です。

3.診断

インフルエンザの迅速診断キットが有用です。熱が出てから12時間~48時間くらいが最も診断精度が高いです(感染症学雑誌より)。それより早い時間帯で検査をした場合は、 たとえ陰性であってもインフルエンザを否定する根拠にはなりませんのでご注意ください。

また、上記の時間帯であっても100%の精度で診断ができるわけではありませんから、最終的には医師による総合的な判断が必要です。

4.治療

安静や対症療法により通常は自然治癒します。しかし、他の病気があり免疫力や体力が落ちている方、新生児、乳幼児、妊娠中の方、高齢者など、合併症による重篤化のリスクが高いと判断された場合には抗インフルエンザ薬の使用が勧められます。

通常の方が使用した場合も早く症状が改善する効果が期待できますが、耐性ウイルスの問題などもあり、全てのインフルエンザ患者さんに抗インフルエンザ薬を使用するべきかどうかは議論のあるところです。

また、オセルタミビル(タミフル)については、10歳代の患者さんの使用例で異常行動との関連が否定できないことから10歳から19歳の方には使用を差し控えることとされています。

インフルエンザは合併症に注意!

病気の子ども

病気・加齢などにより免疫力が低下している方や小さいお子さんの場合、インフルエンザが重症化し合併症をきたすことがあります。ここでは、特に注意すべき合併症についてふれたいと思います

1.インフルエンザウイルスによる肺炎

インフルエンザウイルスそのものが肺まで炎症を起こした状態です。熱がいつまでも下がらず、息苦しさなどが出てきたら注意が必要です。インフルエンザに対する抗ウイルス薬治療などが必要です。

2.細菌性肺炎

インフルエンザに続いて、細菌が増殖して肺に炎症をおこした状態です。インフルエンザは気道や全身の抵抗力を落とし、細菌性肺炎を合併するリスクが高いです。原因菌に応じた抗生物質の投与が必要です。

一旦下がりかけた熱がまた上がってきた、痰の色が緑や黄色など濃い色のまま量が増えている、咳がいつまでも続く、だるさや食欲低下がいつまでも続くなどの症状があったら医師の診断を受けましょう。

3.インフルエンザ脳症

インフルエンザウイルスが脳や中枢神経系の炎症を起こした状態です。行動異常、けいれん、意識障害などの重篤な症状をきたし、ときに後遺症が残ったり死亡したりしてしまうこともある危険な合併症です。

幼小児に多いのですが、成人でも起こります。報告を基にした発症年齢の分布としては、9歳以下で7割程度、10歳から19歳で1~2割、20歳以上が1~3割となっています(国立感染症研究所より)。

インフルエンザ脳症の予防にはインフルエンザの発症予防として、ワクチンが有効と考えられます。また、特に小児ではインフルエンザで熱が出たときの解熱剤にアスピリンやロキソニン、ボルタレンなどのいわゆるNSAIDSと呼ばれる解熱剤を用いないことが重要とされています。解熱剤として使えるのはアセトアミノフェン(商品名カロナール、アンヒバなど)のみと考えてください(日本小児神経学会より)。

風邪、ウイルス感染の予防法

手洗い

秋から冬の風邪を予防する方法として、ウイルスの性質や感染経路から、以下の点に注意していただくとよいと思います。

1.ワクチン

インフルエンザの予防にはワクチンが有効です。発症予防できる率は健康な成人で70~90%程度、60歳以上の高齢者で58%と、決して万能ではないですが、有効性が証明されています。

高齢者や合併症により免疫力が低下している方の発症予防効果は、健康な成人よりも落ちるとされていますが、重症化や死亡率の低下に役立つためむしろ積極的に推奨されています。

最近、診断陰性例コントロール試験と呼ばれる効果判定法が流行期にリアルタイムで行われるようになり、流行しているウイルスのタイプ別にワクチンの効果が判定できるため、新たな活用法が期待されています(日本医事新報 No.4879 2017.より)。

一方、RSウイルスやライノウイルスにはワクチンは開発されていません。

2.手洗い、手指消毒

ウイルスは感染者のくしゃみや鼻水などに含まれています。それがドアノブや電車のつり革、水道の蛇口など多くの人の手が触れる場所についており、自分の手にもついてしまいます。その手で目をこすったり、食事をしたりしたときなどに口の中に入ります。このような感染経路を接触感染といいます。

接触感染を予防するためには外出中は手を顔にもっていかないように注意するとともに、こまめに手を洗うようにすることが重要です。特に、何か食べる前には必ず手を洗うようにしましょう。手を洗うときは水道水で石鹸を併用するとさらにウイルスが死滅します。頻回に手洗いをすると手荒れが問題になることがあり、その場合には手指用消毒剤を利用していただくと良いです。

3.手を顔にもっていかないようにする(目や鼻を手で触らない)

接触感染を予防するためです。

4.うがい

口やのどに入ったウイルスを洗い流す効果が期待できます。とはいえ、ウイルスは粘膜に付着して20分ほどで粘膜内へ侵入するといわれていますので、接触するたびにうがいをする、ということはなかなか困難ですね。このように限界はありますが、人ごみや電車に乗ったあと、あるいはかかっている人、かかっていそうな人と接触した際にうがいをすることは無駄ではないと思います。

2005年に発表された研究報告では、うがい薬を使う必要はなく、水のうがいが風邪の予防に有効だったとされています。

5.加湿

インフルエンザをはじめ、この時期に流行るウイルスは乾燥した寒冷な環境で増殖しやすいという性質を持っていますので、部屋の加湿により、ウイルスが空気中に長くとどまることを防止できると考えられます(J Infect. 2015 Jun;71 Suppl 1:S54-8. doi: 10.1016/j.jinf.2015.04.013. Epub 2015 Apr 25.より)。

6.マスク

諸説あるところですが、一定の有効性はあると考えられます。不織布製のマスクにより、飛沫感染のある程度の予防、気道粘膜の加湿効果、口に手をやらずに済み、接触感染を防ぐ効果が期待できます。

ウイルスそのものは0.3ミクロンと、とても小さいのですが、飛沫は5ミクロン程度であり、そのレベルの粒子を通さない性能を持っているマスクは市販されています。もれがないようにしっかりとフィッティングを行い、定期的に新しいものに変えて使用することで、予防効果が期待できるのではないでしょうか。

また、かかってしまった場合には、他者への感染予防効果が大いに期待できますので、風邪をひいた方は、外出する際にはなるべくマスクを着用していただきたいと思います。

おわりに

以上、秋から冬にかけて流行する風邪症状の原因ウイルスとその合併症や予防法についてまとめました。インフルエンザや幼小児期のRSウイルスは重症化することもありますので、高熱、激しい咳、息苦しさ等があるようでしたら、早めに医師の診断を受けることをお勧めします。