熱があるだけでなく下痢の症状もある。この場合、最も可能性が高いのは感染性胃腸炎ですが、下痢という消化器に関係する症状であっても、実は全身に関わる病気が隠れていることもあります。また、発熱と下痢の症状がみられたとき、原因として考えられる病気は年齢性別によって異なります。今回は発熱と下痢の仕組みと、考えられる病気についてご紹介していきます。

目次

発熱が起こる仕組み

発熱は細菌やウイルスなどの病原体から身体を守る反応です。

体温は脳にある視床下部という部分で調節されており、体内に病原体が侵入すると、その病原体をやっつけるために免疫細胞が働きます。この免疫細胞は、平熱よりも高い温度の方がより強力に働くことができ、視床下部は防御力を高めるために体温を上げるよう全身に命令を出します。すると、手足の血管を収縮させ、身体の表面(皮膚)に近い血液を身体の中心へと移動させることで、熱が逃げないようにしたり、身体を震えさせることで新たに熱を作り出したりします。そして発熱させ、体温を上げているのです。

下痢が起こる仕組み

下痢は便に含まれる水分が多すぎる状態です。私たちの消化管には1日の間に、食事飲み物から摂取する水分約2Lと、食べ物を分解するときに働く唾液胃液腸液などの消化液7Lの、計9Lの液体が流れています。このうち99%は腸で吸収され、便に含まれる水分はほんの100gです。このバランスが崩れた場合、たとえば、摂取する水分量消化液の分泌量が多かったり、腸の吸収力が落ちてしまったりすると、簡単に下痢になってしまうのです。

また、腸に炎症がある場合、働きが悪くなることで吸収力が落ちるのもそうですが、その部分から血液や細胞の中に溜まっている水分が漏れ出てしまうことでも便の水分量が増えることになり、下痢を引き起こします。

発熱と下痢が同時にみられる原因

トイレにこもる男性-写真

感染性胃腸炎

ロタウイルスノロウイルスなどのウイルスサルモネラ腸炎ビブリオカンピロバクターなどの細菌感染が原因となって、吐き気嘔吐下痢腹痛に加え、脱水発熱などがみられます。発熱は、病原体に対抗するために生じるものですが、下痢や嘔吐で水分が大量に失われて脱水になってしまうことで、身体に熱がこもりやすくなることも原因の一つとして考えられます。

下痢は、腸の炎症によっても生じますが、身体から病原体を排除する働きもあります。身体の中に病原体を留めないために、消化管の動きを活発にさせることで、消化吸収する前に腸を通過させ、下痢便として排泄させています。

炎症性腸疾患

潰瘍性大腸炎クローン病はいずれも難病指定の特定疾患で、消化管の広い範囲に炎症を起こします。20代~30代の若い人に発症しやすい自己免疫性の病気です。自己免疫とは、自分自身の細胞を誤って敵として認識して攻撃してしまうことをいいます。潰瘍性大腸炎では男女差はありませんが、クローン病はやや男性に多いことが知られています。

それぞれの症状として、潰瘍性大腸炎では、結腸から連続的に病変が広がっていき、炎症部から出血が生じることで粘血便貧血がみられます。これに対し、クローン病では消化管のどこの部分にでも炎症が生じるため、肛門周辺のできものや口内なども特徴的です。2週間以上発熱と下痢が続く場合は炎症性腸疾患が第一に疑われます。

免疫不全症候群

免疫系の遺伝子に異常があり、生まれつき免疫力が低く、感染症に対して抵抗力が異常に低い病気です。一度風邪をひくとなかなか治らず重症化しやすく、治ったとしてもまた再発してしまうということを繰り返します。皮膚や口、消化管の粘膜に感染が起こることが多く、にきびや口内炎ができやすかったり、発熱下痢が続いたりします。下痢が続く状態では栄養が十分吸収できないため、周りの子と比べると成長に遅れが出ることもあります。

甲状腺機能亢進症

甲状腺とは首の前にある小さい臓器で、新陳代謝に関わる甲状腺ホルモンを分泌しています。バセドウ病亜急性甲状腺炎などの甲状腺の病気では、甲状腺の機能が亢進(こうしん:過剰になること)し、じっとしている場合でも身体は常に運動を続けているような状態になってしまいます。この結果、動悸息切れ発熱大量の汗手の震え体重の低下などの症状が現れます。また、消化管の動きも活発になることで、消化・吸収が間に合わないうちに運ばれてしまうため、下痢の症状もみられます。甲状腺の病気は女性に多く、20歳~40歳代に発症しやすいといわれています。

このほか、腹膜炎などの病気でも下痢の症状がみられることがあります。

まとめ

発熱と下痢の症状がみられたとき、頻度としては感染性胃腸炎のような消化管の感染症が最も多いですが、炎症性腸疾患やバセドウ病などの自己免疫疾患や免疫不全症など、全身に関わる病気が隠れていることもあります。発熱や嘔吐、動悸などの下痢以外の症状がある場合や、症状が落ち着かずに長引くような場合は、食べ過ぎかな、冷えたかなと自己解決せず、医療機関で適切な治療を受けるようにしましょう。